AICブログ

公認サークル「Ange Illustration Circle」のブログ

アンジュ・ヴィエルジュの大会レポートや今日のカード考察、サークルメンバーの描いたイラストなどを記事にしていきます。

【アンジュSS】プロローグofニコル 第1話

Write:KT

登場人物
鬼天童子(きてんどうじ)ニコル
OCnikoru

第1話「もう1人のエース」

鬼天童子(きてんどうじ)ニコル、17歳、158cm、体重は……女の子ですし尊重しましょう」
「性格は陽気でハイテンション、誰にでも明るく接し、特定のグループには属さない自由な子ですね」
「得意科目は体育、苦手科目は歴史、好きなものは鬼、嫌いな食べ物は桃、本島では寮生活、エクシードは再生能力」
「彼女のプロフィールは以上です、質問は?」
「えっと……何もかもいきなりすぎて頭が追いつかねぇんだけど……」
「てかちょっと歩くの早すぎません? 競歩?」
「彼女待たせてますからね」

カツカツカツカツ……

学校には似合わないハイヒールが廊下を叩く音が等間隔で聞こえる。
教員と思しきスレンダーな女性と、まだ新しい青蘭学園の制服を着た青年は廊下を早走りで歩いている。
「だいたい、専属プログレスって、もっと長期間の試用を行ってから厳密に決められるって聞いたんですけど――」
「それに俺、最初のリンク適性検査でボロボロだったじゃないですか」
「えぇ、ご心配なさらず。 最初の時点でリンクが上手くできない人はそう少なくありませんよ。 この前入学したαドライバーもそうでしたから」
黒スーツの女性は黒い眼鏡をクイっと(いじ)り、キビキビとした口調で言った。
「彼女は本島で『エース』と呼ばれる存在で、αドライバーによってエクシードの引き出せる強さが変化するのです」
「あぁ、その『エース』ってのは、ここに連れてこられる時に聞いたことあるけど……岸部沙織(きしべ さおり)……だっけか? 地球出身のプログレスで初のエースだって」
「でも、確かその子って既に専属のαドライバーがいるって……」
「えぇ、岸部沙織はエースです。 表向きには本校で初めてのエースとされています」
「表向き……?」
「今から君が会う彼女、鬼天童子ニコルもまた『エース』なのですよ」
カッ!
黒スーツの女教員は急に立ち止まり、ハイヒールは演奏を止めた。

ガララ……

教室の扉を開けると、真っ赤な光が視界を支配する。
思わず目を()らす。 赤い光の正体は沈みかけの西日だ。
「あっ! もしかして君が私のαドライバー?」
教室の中から女の子の声が聞こえる。
声を聴いただけで分かる、お調子者でハイテンションな奴だ。
「はい。 それでは、後はお任せします」
そう言って女教員は俺を教室の中に入れ、教室の扉を閉めてさっさと退散した。



目が西日に慣れて、徐々に女の子の姿が明白になる。
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「(机の上に座りやがって、おちゃらけた態度の奴……)」
「お前が、鬼天童子ニコル……?」
その瞬間、机の上に座っていた女の子――鬼天童子ニコルはガタッと物音を立てながら机の上で立ち上がり、腰に手を当てて高らかに言った。
「いかにもタコにも! 鬼を求めて三千里、(はる)か遠くのニコニコ星からやってきた、地球人見習いの鬼天童子ニコルかっここれは世を忍ぶための偽名(ぎめー)ーとは私のことですよォ!」

「…………」

「ふぅん↑ このニコルの自己紹介時にカミングアウトという大胆奇抜で鬼クール(こぅ↑ーる)!な登場に呆気(あっけ)にとられてますね~うんうん」
「引いてんだよ、気付けよ」
「おーぅ、鬼シャイーな方でしたかぁ失敬(テヘッ」
「お前基準で性格語られたら日本人全員シャイになるわ」
「ふーむ、でも思ったよりもフツーな人が来ましたねぇ。 鬼フツーですよ、身長もそこまで高いわけでないし」
「くっ、会うなり人のこと(けな)しやがって……」
「まーぁ普通ってのはいいことですよ! その身長も少女漫画の主人公と同じクラスで入学当初こそあからさまに敵対心抱いて何かと突っかかってくるけど、あとあと主人公と触れ合っている内にわだかまりが取れて最終的には主人公のピンチの際に必ず現れるご都合主義を体言化したようなツンデレ♂美少年と同じくらい――と言えば(てい)は良いですよ、イケメンじゃないけど」
「最後余計だろ!!」
「そしてその髪ぃ。 ツンツンですねーチクチクですかツンツンするんですかーチクッといっちゃうタイプのヘアーですかぁ?」
「うるせーな、別にこんくらい普通だろ。 っていうかお前こそその髪の縛り方はなんだよ、西日のせいで壁に映し出されているシルエットが完全に蟹なんだけど」
確かに、両者を比べてもニコルの方が圧倒的に奇抜な髪型だった。
しかし、ニコルはそんな青年の主張を綺麗さっぱりスルーして続ける。
「いや分かりますよ? オレンジにすれば死神代行とかイエローにすれば七代目火影とか、ツンツンヘアーの御利益にあやかりたいィー!って気持ちは十分に分かりますが」
「あー、なんか俺の専属プログレスがいるとか聞いて来たけど気のせいだったんで帰りますわ」
「Oh attends! 待ちなんし! フリーズフリーズ! そんな今時の売れないラノベタイトルみたいなセリフ言って帰らないで!」
「お前ほんと多方面に喧嘩売ってくスタイルなのな」
「まぁ、このままニコルが喋るのもいいですが、いい加減ニコルのセリフだけで文章量多くなってこのSSも『ほんとにショートかよ、読んでるだけで疲れるんだけど』ってツッコミ貰いそうなので話を戻しましょう」
「……何言ってるんだがよく分からねぇが、入学早々に呼び出すくらいだ、何かあるんだろ?」
「oui. 話は聞いていると思いますが、ツンツン君は私の専属αドライバーに選ばれたってことですよー」
「ツンツン君言うな! 俺にはれっきとした名前が――」
「入学時のリンク適性検査で誰とも上手くリンクできず、在校プログレスの中でも適性が高かったのは7.5%止まり。ま、俗に言う落ちこぼれですなぁ」
「うっ……」
「ですが、最初はリンクが上手くできない人は少なくないですし、その後プログレスとの交流で絆を深めることで徐々にリンク率を上げることだってあります。てかその実例がニコルと同じクラスにもいます、はい」

「でも、君のリンク率は今後一生、上がりません」



「……え?」
青年は、昨日この青蘭島に連れてこられたばかり。
プログレスだのαドライバーだの世界接続(ワールドコネクト)だの分からないことだらけだが、自身のリンク率の低さには負い目を感じていた。
そのリンク率の低さが場合によっては改善できて、その実例もいるなら自分もなんとかなるのではないか……そう安堵(あんど)した矢先の言葉だった。
「一般的に、リンク時にプログレスとαドライバーとの間で発せられる脳波はP-α波と呼ばれ、お互いのP-α波の波長をシンクロさせることでプログレスはエクシードの真価を発揮するのですよ」
「ですが――ツンツン君、君の脳波はこの一般的なP-α波ではなく、P-γ波という異質な波長だったのですよ」
「リンク率は、プログレスとαドライバーの同じ波長のシンクロ率で算出されます。 P-α波とP-γ波という異なる波長の脳波をシンクロさせるのは至難の(わざ)で、実例もありません」
「つまり、君が今後どんなに頑張っても、女の子との絆を深めても、リンクできる日は来ないってことですよ」

「……ははっ、つまりは、落ちこぼれの俺みたいな奴に相応しい、落ちこぼれなプログレスがいるってことか」
(うつむ)いていた青年はヨロヨロと視線を上げ、半ば(にら)むようにニコルを見る。
噂に聞いていた青蘭学園での生活が、来島2日目にして音を立てて崩れ落ちたのだ。
西日が沈みかけている。
教室内は西日に照らされ、真っ赤な壁紙に衣替えをしている。

するとニコルは身体の向きを変え、今まで背にしていた西日を見る。
やはり眩しいのか、顔の前を手で遮る。
「御名答ですねぇ、鬼ヒットです。 ニコルもツンツン君と同じ落ちこぼれ」


「P-γ波の脳波を持った、プログレスですよ」
そう言ってニコルは、顔だけ青年の方を振り返る。


「え……?」
『リンク率は、プログレスとαドライバーの同じ波長のシンクロ率で算出されます――』
脳内でニコルの言葉が蘇る。
「俺と同じ……波長……」

ニコルは勢いよく机の上から飛び降りると駆け足で青年の元に来て、手を後ろで組み、顔を近づけて満面の笑みで言った。
「待ってたよ、私のαドライバー!」

……

…………

………………

「いやぁー、ツっくんのあの絶望した!って感じの顔、面白かったですよー!」
「てめぇ……思わせぶりな発言で人の心を(もてあそ)びやがって……、だいたいツっくんってなんだよ! 俺にはちゃんとした名前が――」
「髪の毛ツンツン君だからツっくん。 いいでしょー、鬼クールで」
「よかねぇ!」……と反論しようと思ったが、そう言ったニコルの笑顔は無邪気な少女そのもので、不思議と目を奪われてしまった。
放課後の教室の中で二人っきりというシチュエーションが助長してか、お互いに並んだ椅子に座って距離が近いからか、ついつい意識してしまう。
「(いかんいかん!)」
(よこしま)な感情に身体を支配される前に、話題を振る。
「そういえば、ニコルは『エース』だってさっきの女の人が言ってたけど」
「うむ! ニコル1人だと微々たる力だけど、αドライバーとリンクすればエクシードの解放率が上がるんですよー!」
「まっ解放率がどれくらい上がるかは実際にリンクしてみないと分からないですからねー。 ツっくん落ちこぼれだから、もしかしたらたいして高くないかも?」
「てめぇ……」
青年は、ニコルの目の前で握りこぶしを振わせる。
「うそうそ、ジョーク。 鬼ジョーク」
「……うーん、でもエースだって認定されてんなら、今まで誰かとリンクしたことあるんだろ?」
「うん、あるよ」
「前のαドライバーはどうしたんだよ?」
「私が壊した」

「……は?」
「いやいや、今度は(だま)されないぞ。 俺だってそのくらいは島に連れて来られた時に聞いたぜ
プログレスとαドライバーがリンク中は、プログレスが受けるダメージや負担はすべてαドライバーが肩代わりして受けるって話だろ?」
「だけど、αドライバーに一定以上の負荷がかかるとリンクは自動的に解除されるんだろ?」
「いくらプログレスが無茶苦茶やっても、αドライバーはせいぜい気絶で保健室行きがいいところだぜ」
「……だよな?」

ニコルは椅子から立ち上がると、どこを見るでもなく言った。
「この話をすると、もしかしたらツっくんがニコルのαドライバーになってくれなくなっちゃうかもしれないから、なるべく話したくないんですよ」
さっきまでの無邪気なニコルとは違った哀愁(あいしゅう)に満ちたその表情は、一連の話が先程のような茶化しでないことを物語っていた。
そして、そこで青年はようやく、西日が完全に沈んで、教室内が暗くなっていたことに気が付いた。

つづく





~制作裏話~
設定に詳しい人は気付いたと思いますが、ちょこちょこ設定を改変しています。
αフィールドという設定はオミットし、代わりにPGとアルドラがリンクをするとアルドラがPGのダメージを肩代わりするような設定にしました。
漫画版(リンケージ)での描写では、ブルーミングバトル中ずっとリンクしてるわけではなく、あくまで必殺技的な感じでエクシードリンクが使われていましたが、このSSでは「能力発動のトリガー」及び「能力の強化(本来の力を発揮)」というようにしています。
アルドラとリンクしないとまともにエクシードが発動できなかったり、リンク無しで発動した場合には効果が弱かったりとかですね。
また、青蘭島の詳細は秘匿にされており、「現在世界に起こっている異変を解決できる能力(エクシードやアルドラへの言及は無く、日常生活で使う「能力」という意味)を有する者が集められる特殊機関」という公表になっています。
つまり、世界救済に託けて有能な人材を引き抜いている宗教団体じゃないかとか、むしろ世界征服を企んでいる組織なんじゃないとか、都市伝説的な悪い噂も蔓延しています。
もちろん、「男女比が極端で、島にいる女の子はみな美少女ばかり。男にとっては夢の楽園」という情報も、風のうわさとして流れてますが(笑)
また、時系列としてはグリューネシルト侵攻前です。

ニコルのキャラクター像は、ニャル子さんを想像してもらえれば一番近いと思います。
「ウザかわいい」を目指してみましたが、どうやら可愛い要素はどこかに落としてきてしまったようです(苦笑)
プロローグですので、6~8話くらいでパパッと終わります(本編があるとは言ってない)
それでは、また第2話で(・∀・)ノシ
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 →第2話

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