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公認サークル「Ange Illustration Circle」のブログ

アンジュ・ヴィエルジュの大会レポートや今日のカード考察、サークルメンバーの描いたイラストなどを記事にしていきます。

【アンジュSS】「そよ風の軌跡」Chapter.2

Write:ノワール

登場人物
エトワール・グレイアーツ
OCeto

Chapter.2

「――お兄さん!」
エトワールには兄がいる。「お兄さん」と呼ばれたその人物は、エトワールの存在に気付くと軽く微笑みかけ、歩み寄ってきた。
「エトじゃないか、元気そうだな。」
「えへへ…お兄さんこそ!」
エドガー・グレイアーツ。エトワールの実の兄にして、グリューネシルト統合軍上層部の幹部である。
「今日はこっちに来てたんだ~…折角なら連絡入れてくれればよかったのに…。」
エトワールは先ほどまでの気を張り詰めたような表情を一変させ、まるで幼い子供のように兄と接している。その様子には緊張感など微塵も感じられず、この場面だけ見ると軍には全く似付かわない光景が広がっている。
「連絡しようにも、流石に上層部にいると手紙とかの文献も検閲されかねないからな…面倒なんだよ。」
統合軍上層部に籍を置く軍人には、機密事項がある程度開示される。しかしその分それの秘匿義務が発生することとなり、場合によっては口に出すことも許されないこともあるという。上層部とは、思いのほか不自由な組織なのだ。
「う~ん…それは仕方ないんだけどね…。」
エトワールが不満そうに頬を膨らませる。エトワールにとって、エドガーは無二の兄であり、最も尊敬し、愛する人物なのだ。
「それでだ、エト。お前の上官からの話はこちらにも流れてきているぞ。」
「あ…うん。私、暫くの間青蘭学園に籍を置くことになったって…。」
蘭学園に籍を置くこと。それは自身の鍛練に繋がり、エクシードの専門的な知識を身に着ける絶好の機会でもあった。そして、それが兄、エドガーに自分の実力を認めてもらう近道だとエトワールは認識していたが、それはこの場から相当の間離れるという意味であり――
「そうみたいだな。」
「…随分淡泊じゃないかな、お兄さん…。」
兄の態度に少しむっとするエトワール。

―暫く会えなくなっちゃうんだから、少しくらい惜しむような態度取ってくれてもいいじゃない、お兄さん……――

実の妹がそんな不満の感情を抱いていることも知らず、エドガーは話を続ける。
「でも、いい機会なんじゃないかな?」
「…いい機会?」
「学園ってことは、お前と同じくらいの年齢の子達が沢山いるはずだ。お前は友達が少ないどころか、殆どいないだろ?」
「うっ……。」
忘れがちだった、自分の痛いところを突かれる。
「お前はもっと他人と触れ合うことを学ぶべきなんだ。俺以外と話すとき、凄く冷たく感じるぞ?」
「それは…。だって、明るく話す気になれないし…。」
エトワールは他人に冷たいわけではない。感情を表に出すことが苦手で不器用なだけなのだ。たまにそれで誤解を受けることもある。しかし、兄であるエドガーの前などの自分が心を開ける環境では感情を露わにすることが出来る。自分でも少し歯がゆいと思ってはいた。
「兎に角だ、お前は青蘭学園で友達を作れ!それがきっとお前の為になる!」
エドガーがこれでもかと言わんばかりにエトワールに熱弁をふるう。流石にここまで言われては逆らえなかった。
「…わかった、努力してみる…。」
「よし……っと、次の会議の時間が近いな…。すまんエト、今日はここまでだ。」
兄の会議の時間が迫っていることを告げられ、少し寂しい気持ちになる。何だかんだ、兄とはまた暫く会えなくなるのだ。
「うん。…会議、頑張ってね!」
「おうさ!エトも学園生活、楽しめよ?」
そう言って、エドガーは廊下の奥、一部関係者以外立ち入り禁止の区画へと足を進めていった。

――――――――

エトワールは、青の世界「地球」へと繋がるハイロゥの目の前に立つ。兄と会話をした翌日、青の世界、青蘭学園に旅立つ時が来たのだ。
(友達…か。)
兄に言われた言葉を思い出す。友達を作ったところで何か変わるのだろうか?そのような疑問が多く浮かぶ。それでも、"兄は嘘をついたことなどない"と自分に言い聞かせ兄の言葉を信じ、また、自分の意志を信じ、エトワールはハイロゥへと足を踏み入れた。
新天地への期待、これから起こりうることへの、幾ばくかの不安を抱いて―

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